Mirage/植野奈月(女子2番)



――ねぇ。ねぇ、ねーえ?
起きてるんでしょ? 寝たフリ下手だよアンタ。
ねぇ、草ちょーだい。
吸いすぎ? うっさい。こーゆうテンションなの。アンタはあたしの母ちゃんじゃないっしょ。
あーはいはい、わかったってば。ありがと。
人間の身体ってどうなってんだろね。こーんなショボい葉っぱ吸ってエッチするだけで飛んじゃってんの、アホくさ。
らしくない? そーでもないんじゃない? あたしはいつも素直に楽しんでるけど。マサだって良かった癖に、もしかしてMっ気あるんじゃない?
本当だって。腰ピクってたよ? あーあ、あたしマサはそっちの人じゃないと思ってたけど。ホントは打つより打たれたいんでしょー、なんかそーゆうのバレバレ。
当然っしょ、あたしを誰だと思ってんのよ。アンタこそ素直になっちゃえば?
え、あたしは引かないよ? 人間なんか大概ヘンタイなんだってば。SMとかホモとかロリとか引く奴だって家で彼氏とかとしてんじゃん。ノーマルとかアブノーマルとか、あんま関係なくない?
あはは、沙織ね。あの子は真性Mだよねぇ、けーいちみたいなのと付き合ってるからどうしようもないね。こないだみんなで飲みに行った時さぁ、ちゅーしてってうっさいからしてあげたんだけど、もうすっごい喜んでんの。今ここでしたいみたいな顔してあたしのこと見るんだよ。
ん、トイレで。飛び過ぎっしょ。飲みながらネタ食ってんだって、軽めのヤツだったけど。なつきぃ、さお濡れてきちゃったよーとか言って。マジ楽しかったなーアレ。
でっしょー? だよねぇ?
結局けーいち呼んだよ。石井くんにやられそーになってたから、あの子バカだからさぁ。やだやだーとか言ってるとオトコは余計喜ぶんだってわかってないの。
あー、マサは嫌いっぽいよね。何かと甘いしね。
ダメかなぁってアンタ何言ってんの、そーいうとこがいいんじゃん。あたしはマサのそーいうとこ、大好きだよ?
んー、そーゆうんじゃないんだよねぇ。最高の友達? みたいな。居心地いいし。
なんかさぁ、マサってあたしたちにそういうの求めてないじゃん?
恋愛感情とか。
そーそー。そーゆうの抜きでエッチしながらこーいう付き合いって、もっと適当なもんだと思うんだけどさぁ。なんか、マサは違うんだよね。本当にお母さんみたい。
あっはは、お父さんってノリじゃないよー。もっと女々しくて逞しい系?
いや、本当のことだから。…っておい、ちょっと。目ぇ逸らしてんじゃねーよ。
そーでもないんじゃん?
うん。だってあたし、そーゆうやつ、嫌いじゃないもん。
どういたしまして。
ん? どした?
無いよ。
無いってば。あたしにはなーんにも無い。
じゃあマサにはあんの? 将来の夢なんか。
あっははは、それマジで?
ごめんごめん。でもあんたそれ本当に夢じゃん。ヒーローなんて二次元の世界にしか存在しないんだよ?
可愛いもんじゃん。今でもなりたいと思ってんの?
だよね。なれっこないもん。
へぇ、調理師? いんじゃない?
あたし?
てきとーに。
だって何にもなりたくないし。ショップ店員とかお嫁さんとかみんなゆってるけどさ、あたし何もピンと来ないもん。別に風俗嬢でもいっかなーみたいな。
いいじゃん。何が悪いの?
だってさぁ、マサは調理師でしょ。調理師は客の食欲満たしてお金もらってんじゃん。風俗嬢は客の性欲満たしてお金もらってるだけ。食欲がオッケーで性欲はダメなの?
でしょ?
ん、眠くなってきた。
あ? うん。
んー。
うん。
うー、起きてるってば。
うん。
ん。
寝てないって。
んー。
あー、葉っぱ。取って取って。




ねぇ。
寝ちゃった?
寝ちゃったのー?
ん、何でもないけどさ。
うん、あのね。なんかね。何言いたかったんだろ。
さっきの話。
ん。
さっきあたしなりたいものないって言ったけど、違うんだぁ。
うん。ママ。
ううん、恭子じゃなくて。あたしの本当のママ、保母さんだったんだよ。
うん。大好き。
本当は好きなの。
うん。優しくて、綺麗でね。なつきがママの化粧道具で悪戯したときね、怒られたけど、ごめんなさいってゆったらその後いつもプリン作ってくれるの。ちゃんと謝って、なっちゃんはいい子だねって、ぎゅうしてくれんの。風邪ひいたとき飛んで帰ってきてくれたし、寝れないときは絵本読んでくれるし、すっごい優しいんだよ。大好きだったなぁ。
でしょぉ? だからあたし、大きくなったらママみたいな優しい保母さんになりたいの。みんなが淋しい子になんないように、いっぱいいいこいいこしてぎゅうってして、いっぱい大好きって気持ちをあげるの。なのになんでママ、どっか行っちゃったんだろ。ねぇ? だからあたしは絶対、何も言わないでどっか行ったりしないの。いつか子供できたりしてもさぁ、ずっと一緒にいてあげて、ママがあたしにしたみたいに、あたしの子供のこと可愛がってあげたいの。
え? 泣いてないよ。あー、今でも好きだなぁ。会いたいな。いつかママが帰ってきたらさぁ、あたしの夢教えてあげたいの。ママ喜んでくれるかな? 応援してくれるよね。
ほんと? 絶対?
あー、早く帰ってこないかなぁ…ん、ちょこっと眠い。
ほんとに?
ねぇ、なんで泣いてるの?
大丈夫だよ? なんでそんなこと訊くの?
泣かないで?
なんで? あたしは平気だよ。
うん。だから泣かないでよ。
ね?
…ね?
ぎゅう? 仕方ないなぁ。
ん。もう泣かない?
よしよし。大丈夫。
大丈夫だって。
どうしたのかなぁ。
ん、あたしもマサも。
ねぇ、どうしたのかなぁ?
…なんか、変じゃない。
そーゆう変じゃなくて。飛んでるだけじゃないよね?
ね、なんで昔の話なんかしたのあたし?
どうしよ? おかしいよ。ねぇ…なんで?
泣いてないよ? ねぇ、なんか怖いなぁ。なんで? どうしちゃったんだろ。ねぇ、怖い。怖いよ。
ダメなんだってば。ねぇ、あたしがゆったこと全部忘れて?
だって、なんか不安なんだもん。
ダメ。絶対嫌なの。
あたし今日ちょっとおかしいだけだって。
大丈夫。
平気だって。今日だけ。ね?
泣いてないって。
嘘?
もういいって、寝よ? 早く。
大丈夫。やめない。
ないと変になっちゃうの。
先なんかどうでもいいよ?
ん。いいじゃん?
泣くなってゆうな。
泣いてないし。
もういいの。
どうでもいいよ。
忘れて? 大丈夫だから。
ん、平気。
平気だってば。
あのねぇ、しつこいよ?
…じゃ、ぎゅうでもしよっか。
あはは。ほら、大丈夫。
ね。もう寝よ?
うん。
大丈夫。
ん、おやすみ。





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